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以下、現時点で公開されている情報に基づく個人の見解です。最新の情報は各機関のホームページ等をご参照頂くと共に、ワクチンの接種、医療機関受診等については専門家のご指示に従ってください。
国内でも高齢者以外の新型コロナワクチン接種が進んでいます。
前回、新型コロナワクチン接種後の注意事項や対策 ということで、いくつかのワクチン接種後の注意事項を整理しましたが、昨今ワクチン接種後の死亡例、副作用の一部としての心筋炎、心膜炎に関する事例が報道され、不安を感じてらっしゃる方も多いかと思います。
NZ、ファイザーのコロナワクチン接種後1人死亡 心筋炎発症 | ロイター
特に心筋炎に関しては、若年男性に発症しやすいということ、ワクチン接種後の激しい運動で発症するリスクがあること等が報道されており、またその症状も身近なものではなく、漠然とした不安を頂く方も多いと考えます。
若年男性においては、何らかの運動・スポーツを行なっている方は多く、どの位の期間、運動をしない方がよいのか?何日経ったら運動してよいのか?という疑問に対して、情報を整理します。
心筋炎とは?
心筋炎とは、心臓の筋肉組織(心筋)に炎症が起きた状態であり、組織の壊死につながります。
心筋炎は、感染症、心臓に影響を与える毒素や薬剤、サルコイドーシスといった全身性疾患など、様々な病気によって引き起こされる可能性がありますが、原因が分からないこともよくあります。
症状は様々ですが、疲労、息切れ、腫れ(浮腫)、心拍の自覚(動悸)、突然死などがみられます。
診断は、心電図検査、心筋バイオマーカーの測定、心臓の画像検査、および心筋生検の結果に基づいてなされます。
治療は原因によって異なり、心不全や不整脈の治療薬を使用したり、まれに手術を行ったりすることもあります。
炎症は心筋全体に広がる場合もあれば、一部の領域にとどまる場合もあります。炎症が心膜(心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜)に及ぶと、心筋心膜炎になります。心筋炎の重症度や心膜への波及の程度によって、どのような症状が現れるかが決まります。心臓全体に広がった炎症は心不全や不整脈、ときに心臓突然死を引き起こす可能性があります。炎症の範囲が小さければ、心不全になる可能性は低くなりますが、それでも不整脈や心臓突然死が起きる可能性があります。心膜に炎症が波及すると、胸痛をはじめとする、心膜炎の典型的な症状が現れます。症状がまったくない人もいます。
心筋炎の原因
心筋炎は、感染によって起こる場合と、感染以外の原因によって起こる場合があります。原因が特定できない場合(特発性)もよくあります。
米国や他のほとんどの先進国では、感染に起因する心筋炎(感染性心筋炎)の原因として最も多いのはウイルス感染です。米国で最もよくみられる原因ウイルスは、パルボウイルスB19とヒトヘルペスウイルス6型です。発展途上国では、感染性心筋炎はリウマチ熱 、シャーガス病 、またはエイズ によって引き起こされることが多くなっています。
感染症以外の原因としては、心臓に有害な物質(アルコールやコカインなど)、特定の薬剤、一部の自己免疫性疾患や炎症性疾患などがあります。薬剤によって引き起こされる心筋炎は、過敏性心筋炎と呼ばれます。
心筋炎の症状
症状はごくわずかの場合もあれば、重度の急速に進行する心不全や重度の不整脈がみられる場合もあります。症状は炎症の程度と重症度だけでなく、心筋炎の原因によっても異なります。
心不全の症状としては、疲労感、息切れ、腫れ(浮腫)などがあります。
心拍の自覚(動悸)や失神がみられることもあります。一部の人では、最初の症状が突然始まる重度の不整脈であることもあります。
心筋炎に加えて心膜の炎症が起こると、胸痛が現れることがあります。鈍い痛みまたは鋭い痛みが、首、背中、または肩に広がる可能性があります。痛みは軽度から重度まで様々です。心膜炎による胸痛は通常、せき、呼吸、嚥下(食べものを飲み込む動作)など、胸部の動きによって悪化します。座ったり前かがみになったりすると、痛みが和らぐことがあります。
感染性心筋炎の患者では、心筋炎を発症する前に、発熱や筋肉痛などの感染症の症状がみられることがあります。薬剤に関連した心筋炎(過敏性心筋炎)は発疹を伴うことがあります。リンパ節が腫れる場合もあります。
心筋炎には急性、亜急性、慢性のものがあります。心筋炎が拡張型心筋症 につながるケースもあります。
心筋炎 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュアル家庭版
心膜炎(急性心膜炎)とは?
急性心膜炎は、心膜(心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜)の炎症が突然発生する病態で、しばしば痛みを伴い、フィブリン、赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔に貯留します。
心膜炎は、感染症や心膜に炎症を起こす病気が原因で発生します。
よくみられる症状は発熱と鋭い胸の痛みで、その胸痛は姿勢や動きによって変化し、まれに心臓発作に似ることがあります。
診断は症状に基づき、また、まれに聴診で特徴的な心音を確認することによって下されます。
しばしば入院となり、痛みと炎症を抑える薬が投与されます。
(心膜疾患の概要も参照のこと。)ときに、炎症により心膜腔への過剰な体液の貯留(心嚢液貯留)が生じます。心膜炎の原因が外傷、がん、または心臓手術の場合には、血液が貯留することもあります。
急性心膜炎の原因
急性心膜炎の原因としては以下のものがあります。
- 感染(ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、エイズ 患者では結核 、アスペルギルス症 )
- 心臓発作
- 心臓手術(心膜切開後症候群)
- 全身性エリテマトーデス
- 関節リウマチ
- 腎不全
- 胸部外傷
- がん(白血病、乳がん、肺がん、エイズ患者ではカポジ肉腫 )
- リウマチ熱
- 放射線療法
- ワルファリンおよびヘパリン(抗凝固薬)、ペニシリン、プロカインアミド(抗不整脈薬)、フェニトイン(抗てんかん薬)などの薬剤
- 不明(特発性または非特異的心膜炎)
急性心膜炎の症状
急性心膜炎では通常、発熱と鋭い胸痛がみられ、胸痛はしばしば左肩に、ときに左腕まで広がります。その痛みは心臓発作の痛みと似ていますが、横になる、食べものを飲み込む、せきをする、深呼吸をするなどの動作によって悪化する傾向があるという点で異なります。心膜腔に貯留した体液や血液によって心臓が圧迫されることで、血液を送り出す心臓の機能が損なわれます。心臓への圧迫があまりに強くなると、死に至ることもある心タンポナーデ という状態に陥ります。ときに、急性心膜炎は症状をまったく引き起こさないこともあります。
結核による心膜炎は、感染症の明らかな症状もなく、知らない間に発症することがあります。発熱と心不全の症状(筋力低下、疲労、呼吸困難など)がみられることがあります。心タンポナーデが起こることもあります。
ウイルス感染症による急性心膜炎は、通常は痛みを伴いますが、一時的で、長く続くことはありません。
心臓発作 の1~2日後に急性心膜炎を発症しても、心臓発作の症状に気を取られるため、急性心膜炎の症状はめったに気づかれません。
心臓発作の10日~2カ月後に発症する心膜炎は、多くの場合、ドレスラー症候群(心筋梗塞後症候群)に合併して起こり、発熱、心嚢液貯留(心膜腔での体液の過剰な貯留)、胸膜痛(炎症による胸膜[肺を覆う膜]の痛み)、胸水(2層の胸膜の間に液体がたまった状態)、関節痛などの症状がみられます。
特発性心膜炎患者の15~25%では、症状の再発が数カ月から数年にわたって繰り返されます(再発性心膜炎と呼ばれます)。
急性心膜炎 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュアル家庭版
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ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎のリスク
こちらはmRNAワクチンの情報を中心に、前回の情報を再掲させていただきます。
厚生労働省の公表情報(期間:2021年2月17日〜7月25日)
・ファイザー: 100万回あたり0.6件
・モデルナ: 100万回あたり0.8件
CDC(米国)の公表情報 (2021年8月13日)
・2021年8月6日時点で、30代とそれ以下のワクチン接種者のうち、1,253人の症状報告が上がった
・主にファイザーかモデルナのmRNAワクチン接種者が対象
・主に青年期の男性、若年成人が対象
Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination | CDC
以下、その他の情報です。
新型コロナワクチンQ&A (厚生労働省)
Q. ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか
A. mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン接種後、頻度としてはごく稀ですが、心筋炎あるいは心膜炎になったという報告がなされています。軽症の場合が多く、心筋炎や心膜炎のリスクがあるとしても、ワクチン接種のメリットの方がはるかに大きいと考えられています。
ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
コミナティ筋注添付文書 (2021年7月改定)
8. 重要な基本的注意
本剤との因果関係は不明であるが、本剤接種後に、心筋炎、心膜
炎が報告されている。被接種者又はその保護者に対しては、心筋炎、
心膜炎が疑われる症状(胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸等)
が認められた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう事前に知
らせること。
日本小児循環器学会
新型コロナウイルスワクチン接種後心筋炎の特徴は、これまでの海外のおもな報告をまとめると下記のとおりです。ただし、世界的に小児のワクチン接種の数が成人と比較して少ないため、今後、新たな情報が出る可能性があります。
- ワクチン接種1回目よりも2回目に起こりやすい
- mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン接種後に多い
- 高齢者よりも思春期や若年成人に、女性よりも男性に多い
- ワクチン接種後に発症する急性心筋炎の大半は軽症
- おもな症状は、ワクチン接種後数日後におこる動悸・息切れ・胸痛など
- 心疾患のある人にワクチン接種後の心筋炎が多いというデータはない
- 心疾患のある人はワクチン接種後の心筋炎が重症化しやすいというデータはない
新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎について(2021年8月11日) | 特定非営利活動法人 日本小児循環器学会
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ワクチン接種後の運動
「心筋炎・心膜炎にならないために」というわけではないですが、下記のような注意事項が各国、各組織から発信されています。
ワクチンを受けた当日は、激しい運動や過度の飲酒などは控えましょう。
ワクチン接種後、生活上で注意することはありますか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
本ワクチンを接種してからの過ごし方
~
当日の激しい運動は控えましょう。
シンガポール保健省は5日、新型コロナウイルスワクチンの最新ガイドラインを公表し、接種から1週間は激しい運動を控えるよう勧告した。接種後に10代の男性1人が心不全に陥るなど、若い男性を中心に心臓に問題が出るケースが数件確認されたためだ。
ワクチン接種後の激しい運動、控える期間を延長-シンガポール新指針 - Bloomberg
現時点で、米国、英国においては、ワクチン接種後の運動に関する推奨や説明はありません。理由は主に科学的根拠が無いからです。
このように各国で状況が異なる背景としては、運動、激しい運動とワクチン接種後の心筋炎・心膜炎等の副反応における因果関係が現時点で明確になっていないからです。そのような状況において上記シンガポールのガイドラインは、発生した事象に基づいて比較的長めの運動を控えるべき期間が設定されています。
ではどうしたら因果関係が明確になるか?という点については、集まる症例データに基づき検証していく必要がありますが、心筋炎・心膜炎が発生した方のワクチン接種後の行動データを後ろ向きに解析するプロセスを考えると、科学的根拠に基づき因果関係を示すことは容易でないことが想像されます。
一方で、運動、特に激しい運動が心臓に負担をかけ得ることは容易に想像できますので、ワクチン接種というイベントとセットになったときに、通常と異なる身体の異変が起こる可能性は仮説レベルとしてでも考えられます。
激しい運動とは?
一般的に激しい運動と言われているのは、いわゆる無酸素運動の類がその対象になるかと思います。
無酸素運動とは?
短い時間に大きな力を発揮する強度の高い運動を指します。
筋肉を動かすためのエネルギーを、酸素を使わずに作り出すことからこのように呼ばれています。エネルギーの発生に酸素を必要とせず、糖をエネルギー源として利用します。全力もしくはそれに近い筋力を短時間で発揮しやすいのが特徴です。
どんな運動が無酸素運動?
筋肉量を増やし基礎代謝を高める運動であり、短距離走や筋力トレーニング、ウエイトリフティングや投てきなどの短時間かつ運動強度の高いものがあてはまります。
有酸素運動と無酸素運動の違いを知っていますか? | POWER PRODUCTION MAGAZINE(パワープロダクションマガジン)
具体的な身近なスポーツを考えたとき、以下のような競技に関しては部分的に運動強度が高いと思われます。
- サッカー、フットサル
- テニス
- 野球
- ゴルフ
- バスケットボール
- バレーボール
有酸素運動とは?
有酸素運動とは、軽~中程度の負荷を継続的にかける運動のことです。酸素を使って筋肉を動かすエネルギーである脂肪を燃焼させることから有酸素運動といいます。脂肪を消費するため、体脂肪の減少や高血圧などに効果が期待できます。
どんな運動が有酸素運動?
体に貯蔵されている体脂肪を燃料とするため、長時間無理なく続けられる強度の運動があげられます。
代表的なスポーツは水泳、ジョギング・ウォーキング、サイクリングなどです。
整理と考察
上記情報に基づく整理と筆者の考察です。
- ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎は、若年男性において2回目接種後に発生しているが、主に軽症であり、接種を中止すべきほどの件数は発生してない
- 一方で因果関係は明確になっていないものの、ワクチン接種後の心疾患による死亡例は存在している
- ワクチン接種後の運動と心筋炎・心膜炎発症の因果関係は証明されていないが、シンガポールにおいては死亡例に基づき、接種後1週間は激しい運動を控えるようガイドラインに記載されている
ワクチン接種後の運動と心筋炎・心膜炎発症の因果関係は証明されていませんが、そのリスクは想像できるので、接種後一週間を目安に激しい運動は控えた方がよいと考えます。特に、「胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸等」の症状を感じた場合はすぐに医師の診察を受けることが必要です。また受診するほどでは無いが体調が優れない場合や不安がある場合も、受診の検討、安静にするとともに、一週間という目安ではなく、体調が回復するまで運動は控えた方がよいと思います。
2018年刊の『家庭の医学』の病気解説部分のみを抽出、再編集したハンディ版。
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